【ネタバレなし】朝井リョウ『生殖記』レビュー。「効率」や「生産性」に疲れたあなたへ突き刺さる、衝撃の“視点”

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こんにちは! にこいちです。

突然ですが、あなたは「効率」や「生産性」という言葉に、息苦しさを感じたことはありませんか?

仕事で「もっと効率よくやって」と言われたり、SNSで“タイパ(タイムパフォーマンス)”重視の生き方を見たりするたび、「私って、生産性低いかも……」なんて落ち込んだり。

まさに、 「仕事で『効率悪いね』と言われて落ち込んだとき、『そもそも“効率が良い人生”ってなんだろう?』と立ち止まったことはありませんか?」

そのモヤモヤ、すごくよく分かります。

もしあなたが今、そうした社会の「当たり前」に少しでも違和感を覚えているなら……。

朝井リョウさんの最新長編『生殖記』は、あなたのそのモヤモヤを、根底から揺さぶる一冊になるかもしれません。

『正欲』で「多様性」という言葉の裏側を抉り出した朝井さんが、次なるテーマに選んだのは、私たちの社会に深く根付いた「効率」や「貢献」の価値観。

この記事では、ネタバレを一切せずに、本作がなぜ「生産性に疲れた現代人」にこそ読んでほしいのか、その“衝撃的な視点”の凄みをお伝えしていきます。

読み終えた頃には、「効率」という言葉の呪いが、少しだけ解けているかもしれませんよ。

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目次

あらすじと“ヤバい”視点

この『生殖記』、まずお伝えしたいのは、「語り手が、人間じゃありません」ということ。

いきなり「え?」って思いますよね。 でも、これが本作最大のポイントであり、私たちが持つ「効率」や「生産性」という価値観を揺さぶる、最大の仕掛けなんです。

どんな物語なの?(あらすじ)

物語は、家電メーカーの総務部で働く 達家尚成(たつや しょうせい)という男性の日常と回想で進んでいきます。

尚成は、周りに合わせてうまく振る舞う能力は高いけれど、どこか冷めているというか、集団にどっぷり浸かって「貢献」することに乗り気じゃないタイプ。

物語は、彼が同僚と家電量販店の「体組成計」売り場にいる、という何気ないシーンから始まります。

一見、よくある社会人男性のリアルな日常が描かれているように見えます。 ──ただし、その「語り手」を除いては。

人間を「オス個体」と呼ぶ“視点”

この物語の「私」と名乗る語り手は、男性器であり、主人公の尚成を含む人間たちを、こう呼びます。

  • 男性を「オス個体」
  • 女性を「メス個体」
  • 子どもを「幼体」

まるで、昆虫か何かを観察する生物学者(あるいはAI?)のような、冷徹で、やたらと客観的な視点。 この語り手は、尚成の人生をすぐそばで見てきた存在でありながら、人間の「感情」や「常識」をまったく理解してくれません。

そして、この語り手こそが、今回のテーマである「効率」と「生産性」の権化のような存在なんです。

彼は、人間の行動を「種の存続」という“たった一つの目的”から評価し、それ以外の行動を「非効率だ」「無駄だ」とバッサリ切り捨てようとします。

「え、じゃあ主人公(尚成)とメチャクチャ対立するじゃん!」

そうなんです。 尚成は「子どもを持つ予定のない」生き方を選ぼうとしている。 かたや、語り手は「子孫を残すこと」こそが絶対的な正義であり、最高の効率だと信じている。

この“ありえない”タッグが、尚成の30年以上の人生(仕事、恋愛、家族)を振り返っていく。 それが『生殖記』という物語です。

「効率が良い人生」って何? 突き刺さる3つのテーマ

この作品が鋭いのは、あの“人間じゃない語り手”が、私たち現代人が無意識に囚われている「価値観」そのものを体現しているからです。

「効率」や「生産性」という呪い

まさに、冒頭の問いかけです。 「仕事で『効率悪いね』と言われて落ち込んだとき、『そもそも“効率が良い人生”ってなんだろう?』と立ち止まったことはありませんか?」

私たちはいつの間にか、仕事だけでなく、休日や人間関係、さらには人生そのものまで「効率」や「タイパ」で測るようになっていないでしょうか。

作中のあの語り手は、その価値観の“究極系”。 彼の目的は「種の存続」ただ一つ。だから、それに関係ない人間の感情、悩み、寄り道、愛といったものすべてを「無駄」「非効率」と断じます。

彼は、人生すら「寿命の効率的な消費」という恐ろしい言葉で表現します。

でも、本当にそうでしょうか? 無駄な雑談、非効率な趣味、誰かを想う時間……それらを全部切り捨てた人生が、果たして「良い人生」なんでしょうか。

この物語を読むことは、「効率」という名のハンマーで自分を殴ってくる“内なる声”と、強制的に向き合わされる体験なんです。

「多様性」って言葉、本当に“正しい”?

そしてこの「効率」の話は、私たちがよく口にする「多様性」の問題とも繋がっています。

最近、「多様性を包摂しよう」という言葉をよく聞きますよね。 一見、とても美しく“正しい”言葉です。

でも、朝井さんは『正欲』に続き、本作でも問いかけます。 「それ、本当に“多様”を認めてる?」と。

例えば、社会が「効率」や「生産性」を絶対の基準にしているとします。 その基準から見て「効率が悪い」と判断された生き方(例えば、子どもを持たない選択や、お金になりにくい活動)は、「まあ、そういう生き方もあるよね」と、“上から目線”で「包摂」されるだけではないでしょうか。

それは、「効率的な生き方こそが“普通”で“正しい”」という前提を温存したままの、偽物の多様性ではないか?

あの人間じゃない語り手は、「効率」という絶対的なモノサシで人間を観察するからこそ、私たちが「多様性」という言葉で隠している“傲慢さ”や“欺瞞”を、容赦なく暴き出してくるのです。

「貢献」しないと、生きている価値がない?

「効率」や「多様性」と並んで、私たちを縛るのが「社会に貢献しなきゃ」というプレッシャーです。

主人公の尚成は、まさにこの「貢献」にピンとこないタイプ。 でも、語り手は「種の存続に貢献しろ」と迫りますし、現実社会も「生産性高く働いて貢献しろ」と迫ってきます。

『生殖記』は、「貢献」や「効率」というモノサシから降りて生きようとする一個人と、それを許さない“何か”との壮絶な対話の物語でもあります。

まとめ:「効率」の呪いを解きたい“あなた”へ

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ここまで、朝井リョウさんの最新作『生殖記』について、ネタバレなしでその凄みをご紹介してきました。

この物語は、単なるエンターテイメント小説ではありません。 「効率」「生産性」「多様性」「貢献」……私たちがいつの間にか“正しい”と信じ込まされてきた価値観を、人間ではない“何か”の視点を使って、根底からひっくり返そうとする、非常に挑戦的な作品です。

正直に言うと、読後感は「あースッキリした!」ではないかもしれません。 むしろ、今まで無邪気に使っていた「効率」や「多様性」といった言葉が使えなくなるような、ある種の“怖さ”すら感じるはずです。

でも、それこそが「朝井リョウ作品」を読む醍醐味ですよね。

こんなモヤモヤを持つ人に、強く推薦します

  • 「効率」や「生産性」という言葉に、息苦しさやプレッシャーを感じている人
  • 「タイパ」重視の風潮に、「大事なものが抜け落ちてない?」と疑問を持っている人
  • 「多様性を認めよう」という“正しさ”に、むしろ傲慢さや違和感を覚えてしまう人
  • 社会や会社の「貢献しろ」という空気に、うまく馴染めない自分を感じている人
  • そしてもちろん、『正欲』で価値観を揺さぶられたすべての人

この物語を読み終えたとき、あなたが「効率が悪い」と切り捨てていた(あるいは、切り捨てられていた)時間や感情が、まったく違う意味を持って見えてくるかもしれません。

「効率が良い人生って、なんだろう?」

その問いに立ち止まったあなたのための、これは“処方箋”ではなく、“劇薬”のような一冊です。 ぜひ、この衝撃的な読書体験を味わってみてください。

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