こんにちは!にこいちです。
突然ですが、皆さんはこんな経験、もしくは不安をお持ちではありませんか?
「あんなに元気だった親が、入院した途端に別人のように小さくなってしまった…」
「病気は治ったはずなのに、なんだかフケてしまった気がする」
実は先日、私の父(60代)が入院しました。
久しぶりに面会に行って愕然としました。「えっ、たった数週間でこんなに弱っちゃうの?」と。
理学療法士として人の体を知り尽くしている私でさえ、実の親の変わりようにはショックを受けました。
でも、そこで私はハッとしました。
「これ、理由を知らない家族が見たら、どれだけ怖いだろうか」と。
「もう歳だから仕方ない」と諦めかけている皆さん、安心してください。
お父さんやお母さんが急に弱ってしまったのには、「サルコペニア(筋肉減少症)」という明確な医学的理由があります。
「なぜそうなったのか」というメカニズムさえわかれば、必要以上に不安になることはありませんし、私たち家族ができる対策も見えてきます。
今日は、理学療法士(リハビリの専門家)の視点から、「なぜ入院すると体は急激に弱るのか?」そして「家族だからこそできるケア」について、包み隠さずお伝えします。
この記事を読み終わる頃には、「次はこうしてあげよう!」という前向きな気持ちになれるはずですよ。
なぜ入院すると「一気に」老け込むの?知っておきたい3つの悪循環
「入院=病気を治す場所」。もちろんその通りです。
しかし、高齢者にとっての入院は、同時に「筋肉を一気に奪う魔のトライアングル」が発生する場所でもあります。
それが、「活動量の低下」「食事量の低下」「炎症反応」の3つです。
炎症反応:体が病気と「戦っている」証拠
まず、これだけは知っておいてください。手術や病気になると、体の中では「炎症」が起きます。
体は病気と戦うためのエネルギーを緊急で確保しようとして、自分の筋肉を分解してしまうのです。
つまり、ただ寝ているだけでも、体の中ではマラソンをしているくらい筋肉が消費されている可能性があります。これは「体を守る反応」なのである程度は仕方がないことですが、知っておくと「なんで痩せちゃったの?」というショックが和らぎます。
活動量の低下:「安静=善」という大きな誤解
ここが一番、皆さんにお伝えしたいポイントです。
お見舞いに行った時、こんなふうに思っていませんか?
「入院中なんだから、寝ていたほうが体にいいんでしょ?」
「動くと疲れるから、じっとしていてね」
実はこれ、逆効果なんです。
高齢者の場合、完全にベッドで寝たきりになると、たった1日で1〜3%、1週間で10〜15%もの筋力が低下すると言われています。「じっとしていること」は、回復どころか、ものすごいスピードで体を弱らせる「毒」になり得るのです。
「でも、動いて大丈夫なの?」と不安なご家族へ
ここで登場するのが、私たち理学療法士(PT)や作業療法士(OT)などリハビリ職です。
私たちは、無理やり運動させているわけではありません。
- 血圧は安定しているか?
- 脈拍に異常はないか?
- 酸素は足りているか?
こういった「バイタルサイン」を常にチェックし、医学的に「動いても安全だ」というラインを見極めているからこそ、ベッドから離れることを促しているのです。

リハビリのスタッフが「起きてみましょう」と声をかけるのは、いじわるではなく「これ以上筋肉を落とさないための治療」なんですよ。
食事量の低下:筋肉の材料が入ってこない
病院食が口に合わなかったり、環境の変化で食欲が落ちたりすることもよくあります。
「筋肉が分解されている(炎症)」のに、「材料が入ってこない(食事低下)」、さらに「動かない(活動低下)」。
この3つが重なることで、まるで雪だるま式にサルコペニア(筋肉減少症)が加速してしまうのです。
ここが盲点!「足腰が弱る」と「飲み込めなくなる」意外な理由
「筋力が落ちる」と聞くと、皆さんは何を心配しますか?
「歩けなくなること」「トイレに行けなくなること」…もちろんそれも重要です。
しかし、私たち専門家がもっと恐れているのは、「サルコペニア(筋力低下)が、嚥下(飲み込み)機能まで奪ってしまう」ことなんです。
「え? 飲み込むのは『喉』の問題でしょ? 足腰は関係ないんじゃない?」



そう思うかもしれません。でも実は、体幹(腹筋や背筋)と飲み込む力は、密接に繋がっているのです
姿勢が崩れると、喉は動かない
飲み込むという動作は、ただ喉の筋肉を使っているだけではありません。「安定した姿勢」があって初めて、喉は正常に機能します。
理学療法士の視点で解説すると、負の連鎖はこう起きます。
- 体幹(体の中心)の筋力が落ちる
ベッドで寝てばかりいると、体を支える腹筋や背筋が弱くなります。 - 姿勢が崩れる(猫背・円背)
座った時に体を真っ直ぐ保てず、背中が丸まり、顎が前に突き出たり、逆に埋もれたりします。 - 「飲み込み」のスイッチが入らない
これ、ぜひ今やってみてください。背中をわざと丸めて、下を向いたままツバを飲み込めますか?
…すごく飲み込みにくいはずです。
背中が丸まると、首の前側の筋肉が縮こまったり、逆に突っ張ったりして、喉仏(のどぼとけ)がスムーズに上下できなくなります。



さらに、猫背だと胸が圧迫されて「呼吸」も浅くなります。飲み込む時は一瞬呼吸を止める必要がありますが、呼吸機能が弱いと、そのタイミングがずれて「むせ(誤嚥)」やすくなるのです
誤嚥性肺炎は「全身の問題」
入院中に「誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)」が増えるのは、単に喉が弱ったからではありません。
サルコペニアによって「座る力」や「呼吸する力」などの土台が崩れ、結果として飲み込めなくなってしまったケースが非常に多いのです。
リハビリで「座る練習」や「立つ練習」をするのは、歩くためだけではありません。
「安全に食事を食べるための姿勢作り」もしているんです。
家族だからこそできる!明日から変わる2つのサポート
ここまで読んで、「入院しているのは本人だし、家族は見守るしかないのかな…」と思った方。
そんなことはありません!
医療スタッフも全力を尽くしていますが、家族だからこそできる「心の通ったケア」が、患者さんの回復を大きく後押しします。
特に意識してほしいのは、「栄養」と「姿勢」の2つです。
「食べて治す」意識:栄養の差し入れ(※要確認)
筋肉を作る材料は、なんといっても「タンパク質」です。
食欲がない時でも、喉越しの良いものなら食べられることがあります。
- 高タンパクなゼリーやプリン(最近はスーパーやドラッグストアでも介護用・栄養補助用の美味しいものが売っています)
- ヨーグルト
- 好きな飲み物
こういったものを、「リハビリのエネルギー補給だよ」と言って差し入れるのも効果的です。
必ず病院スタッフに確認を!
患者さんによっては「カロリー制限」や「塩分・タンパク質制限」があったり、「飲み込みの状態(トロミが必要など)」によって食べられないものがあったりします。
病院には管理栄養士がいて、綿密な栄養管理を行っている場合も多いです。
自己判断で渡さずに、
「筋肉を落とさないように何か食べさせたいのですが、差し入れしても大丈夫なものはありますか?」
と、看護師さんや栄養士さんに相談してみてください。「協力してくれる家族だな」と、きっと喜んで相談に乗ってくれますよ。
面会時間は「座る」リハビリタイム
面会に行った時、お父さんやお母さんがベッドで寝ていたら、どうしますか?
もし体調が悪くなければ、ベッドの背もたれを起こしたり、椅子に座らせてあげたりしてください。
「せっかく来たんだから、顔を見て話そうよ」
そんな何気ない会話の時間も、実は立派なリハビリになります。
- 重力に逆らって体を起こすだけで、体幹(腹筋・背筋)が刺激される。
- 目線が高くなることで、脳への刺激になり意欲が湧く。
- 良い姿勢で話すことで、呼吸や発声の練習になる。
「安静にしていてね」ではなく、「一緒に座ってお話ししよう」。
その時間が、弱りつつある筋肉への一番の特効薬になります。



ただし、看護師さんや理学療法士、作業療法士の方に確認したうえで行ってください
まとめ:「知ること」が、一番の親孝行
今回の記事のポイントを振り返ります。
- 入院中の急激な衰えは、「年のせい」だけでなく、炎症・安静・栄養不足による「サルコペニア」が原因。
- 「安静=善」は誤解。 理学療法士などのプロがバイタルを確認しているなら、動くことが回復への近道。
- 筋力低下は「飲み込み」も奪う。 姿勢が悪くなると誤嚥のリスクが高まる。
- 家族の出番。 栄養士と相談した上での「栄養補給」と、面会時の「座る習慣」でサポートを。
私の父もそうでしたが、入院して小さくなってしまった親を見るのは辛いものです。
でも、「なぜそうなったのか」という理由さえわかれば、むやみに怖がる必要はありませんし、私たちにもできることが見えてきます。
この記事が、入院中や退院後のご家族を支える「お守り」のようになれば嬉しいです。
理学療法士として、そして一人の家族として、皆さんの大切な方が元気になることを心から応援しています!

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